アニメで学ぶ歴史#02『百錬の覇王と聖約の戦乙女』4話

こんにちは! 斜構(しゃにかまえ)です。

今回はアニメ『百錬の覇王と聖約の戦乙女』第4話に登場する謎のセリフの考察を通して歴史の知識を深めていきたいと思います。

第4話のあらすじはこちらです。

《角》の街、ギムレーを訪れた勇斗たち。新しい農法を提案する勇斗だったが、街の人々の反応は冷たい。リネーアは勇斗の役に立とうと、人々を説得し始める。彼女の人望に感心する勇斗。だがリネーアは、勇斗より劣っている自分に、宗主としての自信を完全に失っていたのであった。

TVアニメ「百錬の覇王と聖約の戦乙女」EPISODE 4「百錬成鋼」

アニメ第4話で謎のセリフ?

あらすじにもありました通り、第4話の前半部分は、先の戦争で占領した《角》に新農法を導入しようと奮闘するというストーリーです。

以下は本編6:00付近での、主人公である周防勇斗と《角》の旧宗主であるリネーアの会話です。

「農業改革をやろうとしたんだが、どうにも受け入れられなくて……」

「あの、ちなみにどのようなことを?」

ノーフォーク農法!」

「なんでしょうそれ……」

「まあ、ざっと言うと色んなものを順番に作って、土地を痩せさせない農業。生産力が大幅に上がる

???

ノーフォーク農法……???

(蛇足ですが、この後のシーンでリネーアが「みなさーん!時代は今、ノーフォーク農法でーす!」と言って問題を即解決したり、勇斗がリネーアについて「さっさと妹にしといてよかったぜ」と発言したりと、迷セリフが連発され、放送当時大変話題になりました。)

氏族《狼》のモデルとなった国

そもそも、勇斗が転生した「ユグドラシル」という世界は青銅器時代です。

アニメでは説明されていませんが、Wikipediaの記事によると、勇斗の父は刀鍛冶職人であり、その影響で勇斗自身も鍛冶については心得があるのだそうです。彼は鍛冶の経験やスマートフォンで得た知識を用いて、ユグドラシルにおいて製鉄技術を完成させ、それを独占することで《狼》という氏族を強大なものとしたようです。

さて、実際の歴史においても、他の国々が青銅器しか作れなかった時代に高度な製鉄技術を独占し、無双した国があります。

それは「ヒッタイト帝国(ヒッタイト王国)」です。

ヒッタイト帝国とは

ヒッタイト帝国は、前17世紀頃~前12世紀頃にアナトリア(現在のトルコ)に存在した国です。鉄製武器と馬(チャリオット)による強大な軍事力によって急成長を遂げ、古代オリエント世界の覇権をエジプト新王国と争いました。

ヒッタイト地図
世界史の窓 ヒッタイト「ヒッタイトの位置」

しかしながら「前1200年のカタストロフ」と呼ばれる、大規模な社会変動により崩壊し、ヒッタイト人が独占していた製鉄技術は各地へと広がりました。これにより青銅器時代が終わり、鉄器時代が始まったと言われています。

これが《狼》のモデルであると考えて間違いないでしょう。

以下の記事によると、ヒッタイトが製鉄技術を確立したのは紀元前1500年頃だそうです。

現在のトルコ付近を中心にして高度の文明を開いた古代オリエント時代の民族「ヒッタイト人」が、紀元前1500年頃に大量の鉄をつくる製鉄技術を確立し,この製鉄技術を武器にして周辺地域を次々に支配下に置くような一大帝国を築いた

シリーズ「鉄の利用:人類の遥かなる営み(6)」【鉄器時代の幕開けと世界的な伝播】(改訂版)

つまりユグドラシルの文明レベルは、地球で言うところの紀元前1500年よりも前である、と考えられます。

ノーフォーク農法とは

次にノーフォーク農法についてです。

同じ作物を同じ農地で何度も繰り返し作り続けると、生育不良となり、収量が落ちてしまうことを「連作障害」と言います。これを防ぐため、性質が異なる作物を一定のサイクルで順番に作付けし、地力を維持する農法が輪栽式農法(輪作)です。

輪栽式農法のうち、18世紀のイングランド東部、ノーフォーク州で普及した農法が「ノーフォーク農法」と呼ばれるものです。一般的には大麦→クローバー→小麦→カブのサイクルで輪作を行うものと言われています。

ここまで読んで「えっ……?18世紀のイングランド……?」と思われた方も多いことでしょう。

そうなんです。

周防勇斗は紀元前1500年よりも前のレベルの文明に、18世紀の農法を持ち込んだのです。

3200年先の農法を導入するとは……

脱帽です……

謎セリフの問題点① 土地の性質

「3200年先の農法を導入して内政チート!」というアイディアは大変興味深いものがありますね。もし仮に、ユグドラシルでノーフォーク農法を導入しようとすると、どのような問題が生じるでしょうか?

第一に、農業とは土地に根差した産業です。ノーフォーク農法はその名の通りイングランドのノーフォーク州の砂質土壌に適した農法であり、地球上どこでも「大麦→クローバー→小麦→カブ」の輪作がよいというわけではありません。

日本国内でも

日本でも、北海道の畑作地帯では「テンサイ→ジャガイモ→マメ類→秋まきコムギ」などの輪作が行われている。また関東でも「ラッカセイ→ムギ→スイカ→ハクサイ→サトイモ」や「ムギ→ダイズ→緑肥→ジャガイモ・ニンジン」という輪作がみられる。

ながの 食農教育情報プラザ/輪作と混植の知恵を生かそう

このように、それぞれの土地にあわせた輪作が行われています。

ユグドラシルでもそれは同様でしょう。《狼》には《狼》の、《角》には《角》の輪作があるはずです。

もし、前述のセリフが

ノーフォーク農法!

ではなく、

輪栽式農法!

であれば違和感が少なかったと思います。

謎セリフの問題点② 高度な社会

仮に《狼》や《角》の土壌や気象の条件に合った輪栽式農業の開発に成功したとします。すると、次の問題が浮上します。

当然のことですが、ある技術を導入するには、社会や経済がそれ相応に発展している必要があります。

ドイツの農学者、アルブレヒト・ダニエル・テーア(1752年-1828年)は、著作『合理的農業の原理』の中で、輪栽式農業を実施するための条件として、以下の7点を挙げたそうです。

1、耕地の完全な所有と自由な利用、その上に他人がもついっさいの使用権の排除、あるいは合理的にそれを囲い込む権利
2、耕地の良い、そして家からあまり離れていない、あまり遠くない位置。
3、あまり痩せてない土地、あるいは肥効に富んだ肥料を入手するための特別な手段
4、多くの労働力
5、ひじょうに注意深い、勤勉な、思慮深い、そして決断力のある管理人。
6、すべての生産物に充分な販路があり、したがって土地が労働にたいして正当な価値をもっているところでのみ、それは適合する。
7、最後に、大きな経営資本と充分な設備とを必要とする。

フリー百科事典 Wikipedia「輪栽式農業」

これをもとに考えますと《狼》の勢力圏内において、最低でも以下の条件がそろっている必要があると思います。

① 近代的な私的所有権の概念が社会に浸透しており、宗主の意向に拠らず、土地の売買が可能である

② 莫大な資本投下ができる富裕層や大土地所有者が存在している

③ 都市や貨幣経済が高度に発展しており、過剰生産物を問題なく販売できる

④ 自由人の賃金労働者が存在する

青銅器時代にこのような高度な社会が築けるかと言われると、正直きつい気はしますが、アニメの中の描写を鑑みるに、都市はかなり発展しているようなので③に関しては無視してもいいと思います。また、 勇斗とその一族が莫大な資本を保有していると仮定すると、②も無視できると思います。

となると、勇斗は主に①と④という条件をクリアするため奔走することになるでしょうね。

謎セリフの問題点③ ユグドラシルの奴隷制を助長する?

仮に社会や経済の発展にも成功し、うまいこと輪栽式農業を導入できたとします。

「やったー!食糧生産が大幅にアップしたぞー!」と、手放しに喜んでも良いものでしょうか?

光の多いところでは影もまた強くなります。

ここで輪栽式農業のデメリットについても確認しておきましょう。

ドイツの経済学者チューネンは輪栽式農法のメリット・デメリットについて以下のように整理した。(中略)

休閑作物の栽培には新たな投資と労働力の継続的投下が不可欠であり、穀物価格が非常に高騰、あるいは土地が非常に肥沃か大量の肥料を供給できる場合でなければ採算性がとれるものではなかった。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』輪栽式農業

ここでいう休閑作物とは、クローバー等の栽培牧草やカブやジャガイモに代表される中耕作物のことを指しています。こういった作物の栽培には、それ以前の穀物栽培にはなかった除草・間引き・中耕・培土など、手間がかかる作業が必要なのだそうです。

「カブは栽培が簡単」と言われることもありますが、それはあくまで小規模栽培に限った話であり、輪栽式農法について語る文脈でそんなことを言おうものなら冗談ではない話です。(中略)カブは穀物と違って多数の「園芸」的な農作業を必要としており、そうした家畜に頼らない農作業のコストも勘案する必要があります。(中略)そして問題となるのは、こうした従来の穀物栽培では必要なかった労働が新たに発生し、さらにおおむね7~8月の頃「のみ」必要になるという点です。(中略)どこか外部から労働力を追加で調達しなければなりません。

ここがヘンだよ農業チート「カブとクローバーを栽培するだけのお手軽チート」

輪栽式農法を推進した《狼》は、ほどなくして深刻な労働力不足に直面することが予想されます。

しかし人口が1年や2年で急激に増加することはまずありません。よって労働市場では急激な需要過多が発生し、賃金の上昇が始まることが考えられます。凄まじい勢いで増大する人件費を目にした農場経営者たちは大量の安価な労働力を欲するようになることでしょう。

この世界観で、賃金労働者以外で大量の安価な労働力となると奴隷しかありません。(アニメ第3話の描写から、ユグドラシルでは奴隷売買が広く行われていることが分かります。)

結果として《狼》の農業は、熟練した賃金労働者と、それに指揮される大量の奴隷によって支えられるようになると予想されます。なんと農業改革を行ったがゆえに、奴隷制をよく思っていない勇斗が奴隷制を助長させてしまった……なんてことになりかねないのです。

今回のまとめ

① アニメ『百錬の覇王と聖約の戦乙女』第四話には少々無理があるセリフが登場する。

② 地球上どこでもノーフォーク農法が通用するわけではない。

③ 輪栽式農法を導入するためには高度な社会・経済が存在していなければならない。

④ 革新的な技術は幸福だけを生み出すわけではない。

備考

文責:斜構 宅夫

※ 本記事はアニメを題材に歴史についての学びを深めるものであり、作品を批判する意図はございません。

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